それはある夏の事――――。
「………」
そこはとある昔、一家心中で廃墟になった豪邸だった。
彼女は夕焼けが差し込む窓辺でひっそりと佇んでいた。
うっすらと聞こえる甲高い子供の声。きっと学校帰りの子供のものだろう。
「…どうして…?」
彼女は誰に問いかけるわけでもなく、ただポツリと呟いた。
そんな少女を嘲笑うかの如く、近くの鳥居の上にいたカラスが一つカー、と鳴いた。
「―――すみませんでした!」
「全く…もういい、下がれ」
この時期になると必ず慌ただしくなる冷房が利きすぎて少し肌寒いこのオフィスで俺は上司に叱られているところだった。
「おい、大丈夫か?」
「あぁ、だけどやっぱりこんなちっせぇ事であんなに言わなくてもいいのになぁ?」
「まぁ、仕事だし仕方ないんじゃねーの?ポカしたのはお前だし」
「そうなんだけどさぁ…」
同僚の大宮悟は入社してから間もなくして打ち解けた仲だ。今年で5年目になる。
ふと悟のデスクを見ると奴はエロサイトを巡回している最中だった。こいつ…
呆れているとどこからともなく部長が現れた。視界の端で悟が慌てているのが見える。
「谷口君、ちょっといいかな?」
「…? はい。」
部長が名指しで呼び出しをするときは基本的にあまり良いことではない事が多い。俺はまた何かやらかしたかなぁと思い当たる節を必死で捻り出していると部長の口から意外な言葉が飛び出した。
「休暇、取らんかね?」
「え?」
周辺にいた人が全員と言っていいほどこちらを振り向いた。驚きを隠せない様だったがそれも一瞬で直ぐに仕事へと向き直った。
「こんな忙しい時期で何なんだが、休暇という名の出張だ。」
「…はぁ。」
理解が出来なかった。休暇と言う名の出張?
「あぁ、勿論有給ではないよ。ただ、行き先の関係でそうなってしまうだけなんだ」
「どういうことです?」
「君の故郷は岩雨村だったね?」
「そうですが…それが何か?」
「そこで少し私の知り合いの手伝いをしてほしいんだ」
「はぁ。」
半ば理解が追い付かないまま自分のデスクへと戻った。
「なんだか様子がおかしかったが何かあったのか?」
話の途中で呼び出された続きだといわんばかりに悟が話を振ってきた。
「いや、それが…」
かくがくしかじかを話すと悟は批難するような口ぶりで
「なんだよそれ。お前だけおいしい思いするじゃねーかよ。俺も連れてけよ」
「知るかよ、頼まれたのは俺なんだから」
悟は尖らせた口を缶コーヒーの飲み口に当てて一気に飲み干すとPCの電源を落とした。ちょうど定時だった。
こいつのこういう時の速さは誰にも負けないんじゃないだろうか。そう思っていると俺は再び部長に呼び出され、向こうでの仕事の内容、場所、その他詳細などを聞かされた。
付け加えて一言、
「あぁそうそう、明日からよろしくね」
と今日の夕飯の希望を伝えるかのように軽く言い放たれた。あまりにも軽過ぎて俺も快く承諾してしまった。
「…え?」
「本当、急で悪いね。それじゃ!」
部長は颯爽と去っていった。何なんだ一体。
帰宅した俺は一先ず明日からの急用に備えてトランクに荷物を詰め込んでいた。
「よし、と」
ちらっと視界に入った某アダルト本が気になったがそんな気分ではなかった俺は一つだけ余っていたバウムクーヘンのかけらを口へ放り込むとちょうどテレビの天気予報が流れていたところだった。
「明日の近畿地方の最高気温は36度で湿度も高いため非常に蒸暑い日になるでしょう。熱中症に気をつけてください」
「もう夏とはいえまだ6月入ったばかりだぞ…」
一人でぶつぶつと自然の摂理に抗いながら水を飲み、明日に備え俺は部屋の電気を消して早めに床に就いたのだった。
翌日――
目覚めた俺はいつも通りスーツを来て出勤しようとしていた。
「…あー」
思いだした。今日から実家だった。
急いで私服に着替えトランクを持って家を出て、鍵をかけ忘れた事を思い出して戻った。
1ヶ月か。結構長いかもな。
長いようで短い俺の"夏休み"は始まった。
「………」
そこはとある昔、一家心中で廃墟になった豪邸だった。
彼女は夕焼けが差し込む窓辺でひっそりと佇んでいた。
うっすらと聞こえる甲高い子供の声。きっと学校帰りの子供のものだろう。
「…どうして…?」
彼女は誰に問いかけるわけでもなく、ただポツリと呟いた。
そんな少女を嘲笑うかの如く、近くの鳥居の上にいたカラスが一つカー、と鳴いた。
「―――すみませんでした!」
「全く…もういい、下がれ」
この時期になると必ず慌ただしくなる冷房が利きすぎて少し肌寒いこのオフィスで俺は上司に叱られているところだった。
「おい、大丈夫か?」
「あぁ、だけどやっぱりこんなちっせぇ事であんなに言わなくてもいいのになぁ?」
「まぁ、仕事だし仕方ないんじゃねーの?ポカしたのはお前だし」
「そうなんだけどさぁ…」
同僚の大宮悟は入社してから間もなくして打ち解けた仲だ。今年で5年目になる。
ふと悟のデスクを見ると奴はエロサイトを巡回している最中だった。こいつ…
呆れているとどこからともなく部長が現れた。視界の端で悟が慌てているのが見える。
「谷口君、ちょっといいかな?」
「…? はい。」
部長が名指しで呼び出しをするときは基本的にあまり良いことではない事が多い。俺はまた何かやらかしたかなぁと思い当たる節を必死で捻り出していると部長の口から意外な言葉が飛び出した。
「休暇、取らんかね?」
「え?」
周辺にいた人が全員と言っていいほどこちらを振り向いた。驚きを隠せない様だったがそれも一瞬で直ぐに仕事へと向き直った。
「こんな忙しい時期で何なんだが、休暇という名の出張だ。」
「…はぁ。」
理解が出来なかった。休暇と言う名の出張?
「あぁ、勿論有給ではないよ。ただ、行き先の関係でそうなってしまうだけなんだ」
「どういうことです?」
「君の故郷は岩雨村だったね?」
「そうですが…それが何か?」
「そこで少し私の知り合いの手伝いをしてほしいんだ」
「はぁ。」
半ば理解が追い付かないまま自分のデスクへと戻った。
「なんだか様子がおかしかったが何かあったのか?」
話の途中で呼び出された続きだといわんばかりに悟が話を振ってきた。
「いや、それが…」
かくがくしかじかを話すと悟は批難するような口ぶりで
「なんだよそれ。お前だけおいしい思いするじゃねーかよ。俺も連れてけよ」
「知るかよ、頼まれたのは俺なんだから」
悟は尖らせた口を缶コーヒーの飲み口に当てて一気に飲み干すとPCの電源を落とした。ちょうど定時だった。
こいつのこういう時の速さは誰にも負けないんじゃないだろうか。そう思っていると俺は再び部長に呼び出され、向こうでの仕事の内容、場所、その他詳細などを聞かされた。
付け加えて一言、
「あぁそうそう、明日からよろしくね」
と今日の夕飯の希望を伝えるかのように軽く言い放たれた。あまりにも軽過ぎて俺も快く承諾してしまった。
「…え?」
「本当、急で悪いね。それじゃ!」
部長は颯爽と去っていった。何なんだ一体。
帰宅した俺は一先ず明日からの急用に備えてトランクに荷物を詰め込んでいた。
「よし、と」
ちらっと視界に入った某アダルト本が気になったがそんな気分ではなかった俺は一つだけ余っていたバウムクーヘンのかけらを口へ放り込むとちょうどテレビの天気予報が流れていたところだった。
「明日の近畿地方の最高気温は36度で湿度も高いため非常に蒸暑い日になるでしょう。熱中症に気をつけてください」
「もう夏とはいえまだ6月入ったばかりだぞ…」
一人でぶつぶつと自然の摂理に抗いながら水を飲み、明日に備え俺は部屋の電気を消して早めに床に就いたのだった。
翌日――
目覚めた俺はいつも通りスーツを来て出勤しようとしていた。
「…あー」
思いだした。今日から実家だった。
急いで私服に着替えトランクを持って家を出て、鍵をかけ忘れた事を思い出して戻った。
1ヶ月か。結構長いかもな。
長いようで短い俺の"夏休み"は始まった。
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by old-imo
| 2012-08-09 10:37
| 幽霊屋敷の首吊り少女